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空間を切り裂く意志とその後処理 ~ローリングストーンズのブラウンシュガー賛歌~

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ロックはまずイントロである。

洋楽ロックの超有名曲に、the Rolling Stonesの"Brown sugar"('71)というのがある。いつ消されるとも知れぬが、とりあえずYouTubeを貼っておく。以下のエントリーは、ぜひこいつを鳴らしながら3分程度で読んでいただきたい。そのように書いた。文章と音楽のハイパーリンクである。


この曲の冒頭のギターカッティングは、聴いてもらうと0.1秒で分かるが、拍を喰ってスタートするつくりになっている。


この拍を喰うというタメがこの曲の命であって、ロックとはこのように、直前の何かをワザと片手落ちさせてでも目に見えない気合いをグッとつかみ、それを足がかりにして、軽く「乗り込んでいく」感覚のことだ。これを演奏で音に定着させ、電気で拡大したジャンルが、ロックなのだ。


だからロックは、それまでのどのジャンルの音楽よりも、動的な意図が含まれており、とりわけ50~70年代の洋楽ロックにはそれが豊富に含まれていた。
AC/DC、エアロスミス、ツェッペリン。優れたリフ主導のバンドは、この斬り込み隊長のようなグイターを常に意図的に鳴らす(ドラムでもいいが)。というよりミュージシャンが、そういう音を鳴らすよう(どこからか)ひらめきの形で要請を受ける、という方がしっくり来る。


ブラウンシュガーほどの偉大な曲ともなると、音楽やロックや曲という概念を超えて、もはや思想そのものである。それもさっき書いたように静的なものではなく、それそのものが形容詞でも名詞でもなく、新しい動詞の発明、というくらいの偉大なものだ。


あの、なにげない乾いた音色のイントロ。フラっと路地裏に入ってきましたよ、こんちは、近くまで来たもんでね、とでもいいたげな、軽く拍を喰うカッティング。拍も喰うが人も喰うような、いい意味のライトネス。


あれはぼくらの周りにつねに漂っている、空虚でシレッとしらばっくれてる現実空間や、偉そうにふんぞり返っている時間軸や、シカめッ面で深刻そうなフリしてるけど実はチャランポランな社会を、音による意図的なひずみで引っ掻き、小さな裂け目をつくる、そんな意図で鳴らされる、いわば「テロリズム行為」の宣言である。


硬く冷たい氷壁に、垂直に一点のみを目指して匕首を突き刺す。これがあのテレキャスターの役割であって、そのあとはメインリフにつながり、ドラム等が追随しながら、音を「補強」し、「確認」してゆく。こうして世界が始動する。

 

仕留めるものは今この瞬間


音楽は、特にロックは、ノリや間(ま)、0.1秒でもズレるとフレーズが死んでしまうような微細でかそけきもの(つまり、演奏)をつかって意識に裂け目をこしらえる。

 

人の世はいつだって、そんな弱っちい、ないも同然のもの、目に見えないものしか、本当の「武器」にならないのだ。人殺しの道具では生命しか奪えないが、目に見えないこの武器なら永遠をピン留めし、しとめられる。この違いは百万光年の開きがある。


今を展開させドライヴさせていくのは、明示ではなく暗示の力である。
人の、あらゆる表現の中で、その効果が絶大なのが音楽だ。だから音楽はマジックなのだ。


ブラウンシュガーでミックジャガーは歌う。奴隷、ヤク、酒に売女にムチといった酒池肉林を。騒々しく、享楽的に、そしてダーティーに歌い上げる。キースのバックコーラスの良センスも手伝って、俗なるもので聖なるもののさらに上をあばくという、60年代後半から72年くらいまでのストーンズにしか、表現できなかった世界観が展開される。


ブラウンシュガーは最後には歌詞もかなぐり捨て、ヴォーカルはイエーイエーイエーウォアーと、上昇気流そのものになって叫ぶだけになり、それまで登場した楽器類が総出でそれをはやしたてる。
そして曲の幕引きはあっけなく、スパッと余韻を残さず終わる。


せっかくイントロで聴き手の意識を上手に喚起しておきながら、啓蒙も提示もなく、ただ腰を振らせ卑猥な歌を聞かせるだけに終始する、そんな3分間。


聴き手の意識を逆なでして、持ち上げるだけ持ち上げて、勝手に去ってゆくチンドン屋。見世物小屋のいかがわしさを丸ごと引き受けたロックンロール・サーカス。しかも再現物(コピー)販売、著作拡大生産なので、カネもひとりでにもうかって最高だ。


これが武器。低俗な世界に、わざわざ斬り込んでいって獲得する「武器」。
かかわった人を腑抜けにする、そんなタイプの「武器」。

みなが腑抜けになれば世界はよくなるということと、世界なんざ知っちゃいねぇってことを、キースとストーンズは確実に、同時に伝える。

71年はこの曲が世界を席巻した。さぞかし、マジカル・イヤーだったことだろう。

 

<了>

 

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